■必要なのは「処方箋」だけ? 200万部の大台を突破した芥川賞受賞作〈1〉の著者・又吉直樹は、自著の宣伝だけでなく、自身が影響されてきた古典文学や刺激を受けている現代文学の紹介に勤(いそ)しみ、結果として文芸書コーナーでは“又吉言及書”が『火花』を囲んだ。同時受賞の羽田圭介が「(又吉に)便乗します」と公言し、あたかも芸人のように数多(あまた)のテレビ番組で笑いを取り、両者の役割を反転させたのは痛快だった。 〈3〉〈5〉〈6〉〈9〉は同じ版元による刊行物だが、年配の女性が指し示す一家言、という共通項もある。世の空気など気にしない語り手からは「順風満帆で来た人ほど、社会に出た後、組織の中でうまくいかないと自殺をはかる」(〈3〉)、「仕事が長続きしない人たちが、世間を騒がすような事件を起こす」(〈9〉)といった危うい断定もそこかしこで放たれているが、発言の炎上やクレームに過敏すぎる社会においては