ベルリンの中心部、国会議長ヘルマン・ゲーリングの公邸にお抱え運転手付きの車で次々に参集する大物実業家たち、この光景に見覚えがないだろうか。このブログでも論じた、エリック・ヴュイヤールの『その日の予定』、冒頭部分で語られた事件だ。本書においてもプロローグの冒頭にエピグラフとして、まさにこのレシ(物語)の引用がある。ヴュイヤールが文学に昇華させた歴史的事実をデ・ヨングは綿密な取材を通しておぞましい事実の記録としての私たちの前に提示する。原題の「ナチスの億万長者たち」、サブタイトルの「ドイツの最も裕福な王族たちの暗い歴史」が内容を明確に物語っている。ナチスに取り入り巨万の富を築いた富豪たちの罪を暴いたのが本書である。 王族という言葉が暗示するとおり、かかる犯罪は一人の手によってなされたものではない。本書ではかかる事態に深く関わった五つの「王朝」が巻末には家系図とともに掲載されている。すなわちクヴ