片山 この本は、昭和の喜劇役者・古川ロッパの生涯を、彼の日記をもとに描いた評伝です。ロッパの日記は、『古川ロッパ昭和日記』(晶文社)が刊行されており、私も読んでいましたが、この本によると『昭和日記』はかなり大幅な入れ替えや削除があるんですね。ショックでした。確かにロッパの日記は「当用日記九冊、自由日記一冊、五ヵ年日記一冊、大学ノート九十七冊」。そのまま刊行するのは難しい膨大さですが、それにしても大切なところが端折られている。著者は『昭和日記』を底本としつつ、原本にも当たって、読みどころを掘り当て直しています。有馬頼寧(よりやす)などの日記研究を手掛けてきた著者ならではの労作です。 ロッパの功績は、1930年代の日本の都会でのビジネス文明の発達に見合った、モダンな芸を創造したことですね。歌舞伎や新派や、庶民的で泥臭い大衆演劇でもない。小難しい新劇でもない。浅草の代名詞であったエノケンこと榎本