『三四郎』の美禰子 --不信とシンパシー-- --漱石中期作品-- 漱石は中期三部作において「愛」をテーマとした。その中で描かれる女性像というものは、その当時流行であったノラのような女性、近代自我に目覚めた女性を題材に取ることもあった。しかしその本質は「恋愛」というより、人間の実存や人生の問題に関わる深いところにあった。幼い頃の母親への渇望、また青年期の父親(家)との葛藤を通過した漱石は、幼子として、また息子として、また夫として、アイデンティテイが求める女性の元型というものを小説上で展開した、とみることができるのである。 (13)『三四郎』の美禰子 --不信とシンパシー-- その1 ○作品の連続性と自立性 本稿では、漱石の作品を大まかに書かれた順に追っているが、漱石の作品を時代順に追う際に、ひとつの問題が生じてくる。作品を順番に並べるのは、作品のそれぞれが不安から問題解決に至る過程を示した