ペテルブルグに上京したとたん、この男の部屋にずっと居候しているのは、たんにけちくさい節約のためばかりではなかった。 むろんそれがいちばんの理由ではあったが、じつはほかにも理由はあったのである。 かって世話を焼いたことのあるレベジャートニコフについて、彼はまだ田舎にいる時分から、ある噂を耳にしていた。つまりこの男は、きわめて先進的な若い進歩派のひとりで、しかも、ある興味深い伝説的なサークルで重要な役割すら果たしている、というのだ。これには、さすがのルージンもびくついてしまった。なんにでも通じていて、いっさいを軽蔑し、あらゆることを暴きたてるこういった強力なサークルを、ルージンはもうずいぶん前から怖れ、何かとくべつな、それでいておよそつかみどころのない恐怖を感じていたのだった。(亀山訳14ページ) まえせつ その一。この部分以下、ルージンがレベジャートニコフの部屋に居候する理由を説明している。