「六十頌如理論」は龍樹が空の教えを60の偈頌を以って簡潔に説いた論書です。龍 樹が空を説く代表的な論書は「中論」です。本ページでは「中論」の教説を踏まえて本 論書を見ていきます。如理とは正しい理の意味であり、それは縁起の道理を指してい ます。本論書は中観派のチャンドラキールティ(月称)が高く評価しており、註釈書を著 わしています。チャンドラキールティは本論書を「中論」と同等に扱っており、彼の「中 論」の註釈書である「プラサンナパダー」にも本論書の偈頌をいくつも引用しています。 本論書の註釈書の冒頭でチャンドラキールティは次のように述べています。 勝利者(仏陀のこと)の正理に随順して、二つの極端を排する「六十頌の正理」を造ら れた方を礼拝し、私は中の道理を以って、その正理を解説しよう。さて龍樹師は縁起 を如実に見て、多大な歓喜を得られた。即ち縁起を悟っている師は、清浄心が最