ジミーさんと僕は油麻地の裏通りにあるビルの入口から短い階段を上がったところで古いソファに腰を掛け、低い声でぽつり、ぽつりと言葉を交わしていた。 照明は落とされていて小さな部屋は隅の方がよく見えない。空気はクローゼットのなかに似ていて、僕たちが話す以外には通りを行く車の音がときたま聞こえてくるだけだった。 中国が来る、とジミーさんが話していた。 中国は香港欲しい、でもなかなか手を出せない、香港人みんな共産党嫌い、ビジネスできないですよ。だから出ていくひともいる。 外のざわめきがひときわ大きくなった、と思うとガラスのドアが開いて短い革のトップスを着た女がひとり、ゆっくり階段を上がってくるところだった。ロシアか東欧の女に見えた。うしろのデスクで書き物をしていた男がスタンドの下から広東語で何か怒鳴ると、女はくるりと踵を返し肩にかけた小さなバッグを揺らしながら階段を降りていった。 でも中国は来る、ジ