★ 四方田犬彦:「貴種と転生」 中上健次が近付いてくる。 やあ、元気かい、と彼はいう。 こんなところに住んでいるとは思わなかったね、とわたしが答える。 場所は新宿西口の中央公園の交番のそばで、二月の昼下がりの薄暗い空からは今にも粉雪が降りだしそうだ。 ここには熊野神社があるんだ、と中上がコートに手をつっこんだままいう。昔ここは十二社といって、悪場所だったんだ。熊野神社はそれとどうも関係があるらしい。 ★ 中上健次『岬』後記 1975年12月 「黄金比の朝」は1年半前に書いた。 吹きこぼれるように、物を書きたい。いや、在りたい。ランボーの言う混乱の振幅を広げ、せめて私は、他者の中から、すっくと屹立する自分をさがす。だが死んだ者、生きている者に、声は、届くだろうか?読んで下さる方に、声は、届くだろうか? ★中上健次『岬』 この女は妹だ、確かにそうだと思った。女と彼の心臓が、どきどき鳴っているの
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