○大澤真幸『「正義」を考える:生きづらさと向き合う社会学』(NHK出版新書) NHK出版 2011.1 本書は単独で読んでも十分面白いし、マイケル・サンデル著『これからの「正義」の話をしよう』の註解として読んでもいい。特にサンデルの著書が、なんとなく腑に落ちなかったという読者にはおすすめだと思う。 冒頭には角田光代の小説『八日目の蝉』が紹介されている。八日目の蝉とは「なくてもいいはずの人生」の比喩だ。この小説が共感を読んだのは、現代人の多くが、自分の人生を、何のためにあるのか分からない時間(物語化されない人生)と考えているからではないか。このような問題認識を確認して、あるべき社会構想の検討に進む。 以下、しばらくはサンデルの著書と同様に、古典的な政治哲学の検討が続く。最初は功利主義。しかし、功利主義は、常に一定の犠牲を必要とする。「最大多数の最大幸福」は絶対に成り立たず、「一定数の最大幸福