いよいよ食い詰めたおれは包丁を持って立ってた。右手に一本、左手に一本。回転寿司屋のレジの向こうの男はまず右手を見て、次に左手を見た。そして言った。 「板前志望ですか?」 「いいえ、強盗です。お金をください」 男はうんざりしたような表情で、「一本で十分ですよ、わかってくださいよ」と言う。 周りからいっせいに携帯端末のシャッター音が聞こえてきた。店内を眺めてみれば、醤油差しから醤油を直飲みする男、裸足で回転皿の上に乗って回ってる女子高生。それを追うように、高速で謝罪文と清掃業務をするアルバイトが皿の上にのせられて回っていた。不祥事が先か謝罪文が先かわからないありさまだった。 「これはあの、従業員も経営者のマインドが必要とかいうやつですか?」とおれ。 「あのころ街は美しかったんだよ」と店長。 手渡されたのはきっかり25万円だった。両手がふさがっていたので、包丁を一本カウンターに置いた。また携帯端
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