美術ファンにはお決まりの作品識別法のひとつだが、古い絵巻や浮世絵に「猫をつれた女性」が描かれていれば、それはほぼ間違いなく女三宮である。「源氏物語」に登場する重要人物だ。 物語でもっとも長い巻の「若菜」で、猫はとても大切な役目を果たす。ある日、女三宮の飼い猫が部屋から飛び出し、はずみで御簾がまくれあがる。その瞬間、外にいた柏木に姿を見られ、二人は許されぬ逢瀬へと突き進む。女三宮と柏木の間に生まれた「不義の子」の薫はやがて物語後半の中心人物へと成長していく。 「平安時代から」が従来の定説 この印象深いエピソードにも支えられて、「猫は平安時代から飼われていた」という理解は広く共有されてきた。源氏物語では、当時はまだ珍しかったはずの猫を飼っていたということが、光源氏の正妻という女三宮の高貴さの暗喩にもなっている。 そしてこれまでの歴史学や考古学でも、飼い猫が日本に登場するのはこの平安時代ごろと見