◆本作は、表面的には69年版をかなり踏襲しているが、映像のトーンやリズム、細々した身ぶりが異なることは言うまでもない。決定的なちがいは、本作が、40歳になったマティ(エリザベス・マーヴェル)のナレーションで始まり、その「現在」で終わる――つまり観客の目のまえで「現在」進行する映像の背後に確たる「過去形」が隠されている――という形式で作られている点である。 ◆撮影技術との関係があることはむろんだが、69年版は、もっぱら昼間のシーンであるのに対して、本作には、夜のシーンが多い。ヘイリー・スタインフェルドは未成年なので、夜の就業許可が降りず、撮影には苦労したらしいが、それまでして夜のシーンを多くしているのも、コーエン兄弟が意図した「時間性」との関係があると考えてよい。 ◆いま見れば、過去の多くの映画がそうだが、69年版のトーンは、あっけらかんとしているのに対して、本作は、ぼんやりした映像、どこま