「敗北感」が渦巻いて 苦しいけど、楽しい。辛いけど、面白い。そんな勝負の連続だった──。 将棋の永世七冠達成という前人未踏、空前絶後の大偉業を成し遂げた羽生善治を、足掛け9年にわたって取材し続けたインタビュー・ノンフィクション『超越の棋士 羽生善治との対話』を上梓した今、私は率直にそう思う。 最初のインタビューで感じた違和感を今でもよく覚えている。 羽生は真摯に話してくれていた。内容自体も悪くはなかった。それは同席していた編集者が「面白かったですね。やりとりがシンクロしてましたね!」と興奮していたことにも表れていた。 だが、それでも、私の内心には、肝心なことが一つも聞けていないような「敗北感」が渦巻いていたのだ。長年、トップアスリートを取材し記事にすることを生業としてきたが、それまでに感じたことのない独特の感覚……。 この違和感はいったい何だろう? 私は煩悶した。 大きな要因は、羽生の感情