江戸時代の日本では、数学が子供から大人まで、殿様から町民まで楽しめる娯楽として親しまれていたという。……と聞くと「なんだなんだ、また江戸しぐさ系の作り話か」というのが平均的な令和人の感覚だろう。 現代社会の検索欄に「数学」と入力しても、予測変換に「娯楽」は出ない。一般的な人生で数学と分かちがたいのは「受験」であり、つまり立身出世の道具だ。必要であるが楽しくはないので効率的に消化したい一日分の野菜350グラム、のような扱いになっている。 そういう時代に生きていると「数学が娯楽である社会」なんてものは想像しづらいが、考えてみると「頭を使うエンタメ」は古今東西どの社会に存在する。囲碁将棋はずっと定番コンテンツだし、どのチャンネルでもクイズ番組をやっているし、大抵のバトル漫画は単なる殴り合いではなく頭脳戦要素がある。世間一般の大衆は、不要なことに頭を使うのが好きなのだ。歴史のある時代に数学がその一