「疾風(はやて)」。離陸速度、最高速度、旋回、急降下等、その性能の高さは世界の中でも群を抜き、第二次世界大戦中、米国軍に「悪魔の機体」と名付けられた。それだけではなく、何よりもパイロットの安全を考え、彼らが迅速に機外脱出出来るよう設計されていた。戦後、米軍はその性能を分析し、驚愕した。 本書は「疾風」を世に生み出した中島飛行機と、そこで生きた人間の物語である。戦闘機について無知な私が、登場人物を通じて戦闘機の世界をはじめて知った。軍によるコンペティション(競争試作)が何度も行われ、そこで中島、三菱、川崎等の会社が競っていたこと。地上試運転で多くの命が失われたこと。戦局が不利になり物資が不足するなかでも、世界一の機体を作り上げていたこと。国民がどれほど戦闘機に夢を馳せていたのかということ。 昭和3年、最初のコンペが開かれた頃、三菱や川崎は飛行機だけでなく戦艦などの軍需物資も手がけていたため、