涸沢キャンプから滝谷ゲレンデへは、景色が良く歩いて楽しい北穂高東稜を相棒達各人が、それぞれフリーソロで攀じるのが常であった。 他愛の無い雑談をしながら歩くのだが、それでも気の抜けるようなルートではなかった。 晴れた日には毎度痩せたナイフエッジの岩尾根で訓練をしている長野県警の山岳救助隊の脇をすり抜けるので、彼らと顔なじみになった。 任官したばかりに見える若い隊員2人を、中年のベテランらしい隊員が連日のようにそのルートで指導していた。 指導しながらの登攀だから、常にフリーで歩く我々がすり抜けて追い越すかたちになった。 そしてすり抜ける間は、彼らの確保を受けるのが常であった。 救助隊の眼前で万一事故があれば責任問題になると説得され、通常は滝谷ゲレンデの取り付きへの下降直前に着ける腰縄(現在のハーネスの役割をする用具で手作り)を、そこで装着することになった。 耳を貸さないパーティーも多く、我々が