長崎県西彼杵半島に万里の長城を思わせる長大な「猪垣」(ししがき)ある。誕生したのは今からおよそ3世紀前、8代将軍、徳川吉宗の時代。農作物をイノシシや鹿から守るため、農民らが現地にある石を使って築いた。総延長は約47キロ(長崎県西海市から長崎市神浦など)に及ぶ。江戸時代などの猪垣は大分県国東半島、長崎県対馬など各地に残っているが、これほど長大なものは九州にはなく、規模は「日本有数」とされている。約1年後の2022年6月は、長城のごとき猪垣の築造が開始されて300年。林道開発などで姿を消しつつある近世の農業土木遺産を後世に残そうと奮闘している人が福岡県糸島市にいる。猪垣が残る西海市出身の会社員で地質調査技師の筬おさ島じま聖二さん(56)。筬島さんの案内で現地を訪ねた。 ■史跡は基点石だけ 学術的に貴重な遺構であることが分かったのは1976(昭和51)年。長崎県教育委員会の調査で、半島をほぼ一周