山登りらしい山登りをやめてから20年以上になる。ピッケルだとかクライミング用のロープだとか山靴だとかは、結婚したときに捨てた。命を危険にさらすことができる立場ではなくなったと覚悟を決めたからだ。ただ、実質的にはその数年前からそういった道具類を使うことは絶えてなくなっていた。時間がなかったからでもあるし、大学山岳部が衰退してそちらから合宿に参加を求められることもなくなったからでもある。ある意味、ちょうどいいときにやめていたのかもしれない。というのは、おそらく、体力的には山登りをやめる直前の30代なかばまでの頃がピークだったからだ。 実際、あの頃は、いま思えばバケモノ並みに体力があった。条件のいい残雪期とはいえ白馬岳から唐松岳、鹿島槍ヶ岳を経て扇沢までの40km、高低差9千メートルぐらいはある行程を山スキーを履いて2泊3日で走破したのなんか、ちょっとアタマおかしいんちゃうかと冷静になれば思う。