評判は耳にしていたし、傑作だろうという確信もあった。それでもなお、なかなか手を出す気になれなかったのは、この手のホラーが決して得意ではないからで――そして、じっさいにプレイしてみたいま、やはり予想は外れていなかったと感じている。 『沙耶の唄』の話である。『Phantom of Infelno』、『Fate/Zero』を生み出した鬼才虚淵玄の代表作の一つ。それまで『吸血殲鬼ヴェドゴニア』や『鬼哭街』で、熱血激闘の世界を描いてきた虚淵が「燃えません。凍えます」とのコピーとともに送り出した血も凍る戦慄のサスペンスホラーだ。 物語は、ある青年が交通事故によってある認知障害に陥るところから始まる。かれの目にはこの世のすべてが豚の臓腑を投げ出したような醜悪きわまりないものと映るのだ。 かつての親友たち、そしてかれに淡い恋心を寄せてくれた女性ですら、どこまでもおぞましい臓腑の怪物としか見えない。そしてそ