『シズコさん』という本を読んだ。上野千鶴子先生の『女ぎらい』で紹介されていて、ずっと読もうと思っていた。 筆者の佐野洋子さんは『100万回生きたねこ』を書いた人だ。私がこの絵本を初めて読んだのは大人になってからだった。家にはずいぶんいろんな種類の絵本があって、なぜこの名作に触れる機会がなかったのか少し不思議だが、それは幸福なことだったのかもしれないと思う。何度もこの本を読み返したが、いつもどうしても涙をこらえることができない。そういう読者でいられるのは、私の精神がそれなりに成熟したからだ。私はこの本の幸福な読者だと思う。 シズコさんとは佐野洋子さんの母のことだ。シズコさんは病弱だった兄を溺愛し、筆者にはつらくあたったらしい。兄は子供のまま死んだ。もう二人、幼子を亡くしたが、まだ四人も子供はいた。シズコさんの夫も、中年で亡くなった。シズコさんが働いて買ってひとりで住んでいた家には、息子夫婦が