人は死せる存在で、時間が限られるゆえに、リスクを取り切れず、期待値に従って利益を最大化するよう行動できない。したがって、「神の見えざる手」は、需要が安定している状況という限られた条件の下で働くに過ぎないのが現実だ。しかし、企業が利益を最大限に追求できれば、世の中のためになるという思想は、持てる者には捨てがたい魅力がある。なにせ、緊縮財政、金融緩和、規制改革を正当化できるわけだから。 ……… 苅部直著『「維新」革命への道 「文明」を求めた十九世紀日本』は、歴史書だし、思想史だしということで、リアルなことしか興味がない者には、縁遠い一冊かと思いきや、江戸期の経済発展が明治維新を用意したという連続性を丁寧に説明する。特に、福澤諭吉の『文明論之概略』を引き、「王政一新」にとどまらず、「廃藩置県」まで至ったのは、「文明」により「智徳」が進み、「門閥を厭うの心」がペリー来航を機に爆発したとするのは説得