赤信号、背景は曇り空。フロントガラスを額縁にして四角形に切り取られた赤と薄灰色のコンビネーションは信号の意味を見落とすことが出来ないほど完璧。僕は停止線の手前1メートルきっちりに車を停め、ズリャっとサイドブレーキをひいた。すると道路の左脇の電柱の影から男が一人てててと駆け足で飛び出てきて誰もいない助手席側の窓ガラスをコツコツと叩いた。あん?相手の服装。量産型スマイル。ポリスマン。僕は苛立っていた。国家権力くらいが喧嘩相手にちょうどいいくらいに苛立っていた。 先月僕の会社に導入されたばかりの業務車、通称「ラブワゴン」は今どきマニュアルシフト。中古で外見もくたびれていて、西部警察のクラッシュ要員に似た哀愁が漂っている。マニュアルシフトは一歩譲って許せるとしても窓の開閉まで手動のレバーというのはどうにも解せない。以前、居酒屋で部長は手動窓の車を採用した意味について力説していた。 「会社の電力がど