💠冥の庭園 written by ハシマミ 💠 「ぜひお話ししたく存じますこともあるのでございますが、 さてそれも申し上げられませんで 煩悶《はんもん》をしております心をお察しください。 ただ今よく眠っております人に今朝また逢ってまいることは、 私の旅の思い立ちを躊躇させることになるでございましょうから、 冷酷であるでしょうがこのまままいります」 と源氏は宮へ御挨拶《あいさつ》を返したのである。 帰って行く源氏の姿を女房たちは皆のぞいていた。 落ちようとする月が一段明るくなった光の中を、 清艶《せいえん》な容姿で、 物思いをしながら出て行く源氏を見ては、 虎《とら》も狼《おおかみ》も泣かずにはいられないであろう。 ましてこの人たちは源氏の少年時代から侍していたのであるから、 言いようもなくこの別れを悲しく思ったのである。 源氏の歌に対して宮のお返しになった歌は、 亡き人の 別れやいとど