あれは事故だった。今でも私はそう思っている。 10年前の春。20世紀の悪夢を振り払うべく、銀行同士が合併を繰り返していた。 その日は最後の大きな合併手術が行われる手はずだった。 大きいとは言えない待合室には、東京銀行、三菱銀行、UFJ銀行が居た。 そのほかに、同じ階にある歯医者の患者が大勢居た。 私は、その日、たまたま歯医者へ来ていた。ここ数週間、親知らずがキリキリと痛むので、ようやく抜く決心をしたのだった。 「えっ、あそこに居るの、銀行よね」 帽子を深く被っているので分かり辛かったが、目が円マークだった。ほかの人たちは気づいていない様子で、雑誌を読んだり、携帯をいじったりしている。 銀行が座っているのを、私は初めて見た。待合室のViViを手に取ったが、全く内容が頭に入ってこない。雑誌を見るふりをしながら、私は銀行たちを観察することにした。 まず、東京銀行と三菱銀行が呼ばれた。両行とも、兄