担当編集 戌による『涙香迷宮』いろは歌の簡単講座 いきなりですが、断言します。 竹本健治先生の『涙香迷宮』は、日本語で書かれた暗号ミステリの史上最高傑作です。 それほどの神品です。まさに「日本語」の奇蹟が起きています。 日本語を愛する人ならば必読です! 思わずそこまで言わしめるほど超絶技巧の暗号は、明治の傑物・黒岩涙香が残した「いろは歌」四十八首で構成されています。 ですが……「いろは歌」って何? その疑問にお答えするべく、『涙香迷宮』作中からまず一首、引用します。 閉ぢぬる室に 遺體あり 鍵は机で 腕部なし 砒素残す魚 大繪皿 眉根八重寄せ 目も見けれ この歌は「密室」に「死体切断」、「毒殺」といったミステリの要素を盛りこんでいますが、全部をひらがなにしてみましょう(濁点は外して、旧かなづかいにします)。 とちぬるむろに ゐたいあり かきはつくえて わんふなし ひそのこすうを おほゑさら