診察室でお医者様から「ご家族は?」と言われて、僕は思わず天を仰いだ。そこには白く輝く天国のかわりに無機質な白い天井があった。 事件は冬らしい寒い朝に起こった。目が覚めたら口から血を吐いていた。血のついた寝具が現実のものと思えなかったけれども、身体を貫くような痛みがかろうじて僕を現実につなぎとめていた。「はやく病院へ!」いつもは冷静な奥様に促されて病院へ向かう。奥様は言ってはいけない言葉を吐き出さないよう、両の掌で口を押さえていた。痛みは、少し休んでいるうちに、耐えられる程度までやわらいできたので、119に頼らず徒歩10分の病院へ。背筋を伸ばせないので前傾姿勢。「ハアハア」息を吐きながら歩く姿は変態そのものだったと思う。受付。待機。診察。 診察を終えると、お医者様から「どうしてこうなるまで放置していたのですか」と詰問された。理由なんてない。肩をすくめた。症状をたずねると「希望する患者さんには