10年ほど前の出来事だが、僕の元に一人の青年が訪ねてきた。「野口さん、エベレストを単独無酸素で登りたいのです」と。短い時間であったがピン!と感じるものがあった。これまでにも何人もの青年たちが僕に同じような事を伝えに来た。しかし、彼らの多くは僕に宣言した目標のごく一部を達成したところで満足してしまったのか、または就職活動といった現実に背を向ける勇気もなかったのか途中で放り投げてしまう者ばかり。だったら最初から僕に宣言などしなければ良かったのに。 しかし、栗城史多(くりき・のぶかず)氏は違った。彼はひたすらに山に登り続けた。そしてエベレストの単独無酸素という極めて厳しい条件を自らに課した。そんな彼をまた多くの人が応援した。しかし、声援を送る人々の大半はエベレスト単独無酸素挑戦の過酷さを理解していない。彼の若さゆえの未熟さが招いた失敗もあっただろう。しかし、世の中には「成功しない人」はいても「失