政治学者のスティーブン・ウォルト氏(ハーバード大学)が、興味深いエッセーを外交専門誌「フォーリン・ポリシー」に寄稿している。タイトルは「リアリストの世界だったなら、どうなっていたか」である。 リアリスト(現実主義者)とは、国際関係をパワーと利益から読み解く学派の総称だ。その一人であるウォルト氏は、「リアリズムの予測は冷戦後の米国の外交政策を支配してきたリベラルの主張より明らかにマシだ」と言う。 NATO拡大への後悔 リアリストがワシントンの外交政策立案者であったならば、ロシアのウクライナ侵攻は起こらなかった可能性がある。リベラル派が主張した北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大がなければ、ロシアと欧米との関係、ひいてはロシアとウクライナの関係は異なっていたからだ。 NATO拡大を進めたのはクリントン政権だ。クリントン元大統領は最近、「そう、NATOはロシアの反対にもかかわらず拡大したのだ」