朝日新聞社の「がんワクチン報道事件」が問題となっている。 私は記事に掲載された東京大学医科学研究所附属病院に勤務する血液内科医である。病院内のがんワクチンの臨床試験には一切関わりない立場であったが、報道の約1年前、がんワクチンに関わるエピソードがあった。 本稿ではこのエピソードを取り上げ、現場はなぜ「合法的に」がんワクチンを使えないのか考察してみたい。 ●●● 2009年x月、東京都内大学病院血液腫瘍内科の勤務医である私に、1通のメールが届いた。それは、同級生の友人からのものだった。 「母が、膵癌だと診断されました。相談に乗ってもらえますか?」 ●●● メールを受け取った30分後に返信し電話番号を聞き、10年ぶりに友人に電話で話した。お母様の病状について伺ったが、膵癌が周辺臓器を圧迫し、他臓器にも転移しており、進行癌の状態であった。第三者の医師として、また友人として、病状をか