「羊」が何を意味するか。ジンギス汗の名が呼びだされもしているが、モンゴル的な征服権力意志を象徴していると、一応いっていいだろう。(川村二郎「文藝時評」『文藝』1982・9) 「羊」とはいったい何なのか。おそらく村上春樹はそれは結局は何かのメタファーではなくメタファーのためのメタファーだといいたいに違いない。事実、その通りだろう。/だがそれを承知で私としては最後に敢えてこの「羊」の正体を解釈してみたい。村上春樹がこだわりつづけた「羊」とは実は、あの一九六〇年代末期から七〇年代初頭にかけて当時の若い世代をより非現実の彼岸へと押しやった「革命思想」「自己否定」という「観念」ではないだろうか。(川本三郎「村上春樹をめぐる解釈」『文学界』1982・10) 羊の世界は「他者性」の象徴である。(井口時男「伝達という出来事」『群像』1983・10) 著者が世代的に少しずつずれている三人の男のなかを〈羊〉に