トルストイは『戦争と平和』『アンナ・カレーニナ』などの長編小説で名を知られるロシアの文豪である。彼は晩年に、真の文芸は人に感化を与え、人生のために何らかの益となるものでなければならないという信念を持つに至った。そしてそれは、単に美や享楽を追求するものでなく、一国民や上流階級の人々だけに通用するものでもなくして、宗教的感情を土台とし、一般大衆にも理解されるものでなければならないと断言したのである。こうした背景から、彼は何編かの民話を書いたが、その中でも『人はなんで生きるか』は、多くの人に感銘を与え、神は愛であることを万人の胸に深く刻み付ける不朽の名作となった。 レフ・トルストイ(1828〜1910)について ロシアの小説家・思想家。領地の農民の教育事業に取り組む傍ら作家活動。独自のキリスト教的立場(トルストイ主義)を提唱。私有財産や性欲を否定し、悪への無抵抗や反戦を説き、社会・教会・芸術批判