落ちちゃった、と彼は言う。だいじょうぶ、と彼女は言う。彼女の体温がほんの少し上昇する。彼の職場の昇任試験が何度受験可能なのか彼女は知らない。彼も言わない。そんなことはどうでもいいとさえ、彼女は思っている。彼女はただ彼に、そのままでいてこの世にはなんの問題もないと、そう教えてやる。小さいころからもう二十年ばかり、断続的にそうしている。 七つの彼を見て彼女は、かわいそう、と思った。彼の兄は彼の二倍の年齢なのに小学生にしか見えない華奢な少年で、そのくせ子どもたちより大人たちのほうに、すっかりなじんでいるのだった。彼はその背後でうつむいていた。彼の兄の内面は早熟でそれを格納するからだは脆弱で、その兄にばかり兄弟の母親の視線が注がれていることが、彼女にはくっきりと看て取れた。なにもかも年相応で目立たない彼を、誰も見てはいなかった。彼女は彼を見た。彼も彼女を見た。かわいそう、と彼女は思った。遊びましょ