里佳子さんが会社に戻ってくるのはもちろんうれしい。うれしいけれども、復帰の打ち合わせと称して女の社員ばかり三人でようすを見にいった私たちの前で里佳子さんはなんだか、思っていたのと違うのだった。私たちは里佳子さんを案じていた。里佳子さんの夫はえらくいばっていて、それもなんというか、自分がえらいものであるために他人を、つまりこの場合は妻である里佳子さんを劣ったものとしてあつかう人で、だから、子どもができて休暇に入った里佳子さんをいじめているのじゃないかって、みんな心配していたのだ。里佳子さんは傷ついているのではないか、疲れているのではないか、自己評価が下がって不安定になっているのではないか。 里佳子さんはそういうのとは少しちがっていた。だからといって楽しそうな、幸福そうなようすでもなかった。もしそうだったら子どもができて里佳子さんの夫は変わったのだと、私たちはそう推測してうれしい気持ちになって
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