中森明菜が、表舞台から姿を消して4年が経つ。今年は彼女のデビュー40周年目に入る。これを記念して6月には1980年代を中心とした初期の全シングルを収めたボックスセットも発売された。 明菜の長きにわたる“沈黙”は、その才能が開花した80年代への郷愁をいやが上にも誘う。(「文藝春秋」2021年9月号より、全2回の1回目/後編に続く) ◆ ◆ ◆ 80年代は、熱に浮かされた時代だった。 校内暴力の嵐が吹き荒れ、若者はブランドブームを先取りした小説「なんとなく、クリスタル」に熱狂。その一方、マネーゲームに狂奔した男たちが引き起こした戦後最大の詐欺「豊田商事事件」が幕を開ける。 そして85年のプラザ合意を機に、為替相場は急激な円高、ドル安へと向かい、バブル経済が始まった。株価は上昇を続け、89年には日経平均株価が3万8915円の史上最高値をつけた。その空前の好景気は、“ジャパン・アズ・ナンバーワン”