ブックマーク / d.hatena.ne.jp/zoot32 (17)

  • プレゼント - 空中キャンプ

    12月に生まれていちばんくやしいのは、誕生日のプレゼントと、クリスマスのプレゼントをまとめられてしまうことだ。毎年この日がやってくるたびに、せめてあと一日、生まれるのが早かったらと私はおもう。これが11月30日なら、もしかするとふたつのプレゼントは別々に渡されていたのかも知れないのだ。哀れな12月1日生まれの私は、誕生日とクリスマスのプレゼントを別々にわけてもらえるよう、夏の終わりぐらいから、周囲に対してそれとなく伏線を張っていた。8歳にしてはぜいたくだけれど、私は自転車とカメラが欲しかった。誕生日に自転車、クリスマスにカメラ。自転車で遠くまで走っていって、そこで見た風景をカメラに収めたかったのだ。それができたら、もうしばらくはなにもいらないとおもっていた。 「まとめるわよ」と、12月9日生まれのお母さんは笑いながらいった。「自転車とカメラなんて、いっぺんに買ってあげられるわけないじゃない

    cb_k
    cb_k 2009/12/02
    あ、アイコちゃんだ!
  • けんか - 空中キャンプ

    わたしの住んでいる家の向かいに、若い男女同棲していて、元気がありあまっているのか、いつもけんかをしている。けっこう派手にやる。昼夜を問わず、「なによそれ」とか、「ちょうむかつく」という声がよく聞こえてくる。叫んでいるのはたいてい女性で、男性の声はほとんど聞こえない。女性の怒りが静まるまで、おもいのほか時間がかかる。 けんかがはじまると、部屋でを読んだり、映画のDVDを見たりしているわたしも、「おっ、はじまった」という感じでなんとなく気にする。けんかの途中でものが壊れたこともあった。皿やコップが割れるような音が聞こえてくるのだ。なにしろたいへんな剣幕である。ここでもし、なんの関係もないわたしが、「やめなさいけんか」などといいながら彼らの家を訪ねていったりしたらびっくりするだろうな、でもちょっとおもしろいな、などとおもいつつ、そのまま部屋でを読みつづけるのだが、するとしだいに、ふたりのけ

  • 人になんかしたい - 空中キャンプ

    「Kちゃん仕事やめたらしいですよ」と、友だちから教えてもらったのは九月の後半だった。ここしばらく連絡していなかったので、仕事をやめたのは知らなかった。Kちゃんの職場はとても厳しくて、同期はひとりも残っていなかった。調理の仕事で朝が早いからしんどいといっていた。彼女はまじめな子で、専門学校をでてから入社して、四年くらい働いていたとおもう。 「いまはどうしてるの」とわたしが訊くと、「八月いっぱいでやめて、それからずっと探してるっていってました、あたらしい仕事」と友だちはいった。まだ決まっていないみたいだった。職探しはたいへんなことばかりだ。わたし自身、何度か経験があるが、暗い記憶しかない。Kちゃんのことを聞いて、明日すぐに電話しなきゃとおもったけれど、なにを話せばいいのかわからなくて、三日ぐらい時間があいてしまった。 Kちゃんと電話で話してみると、数日前に、つなぎのアルバイトを決めたところだっ

    人になんかしたい - 空中キャンプ
  • 私たちまだ死んでない - 空中キャンプ

    サリンジャーは、「ジェローム・デイヴィッド・サリンジャー」という、それだけですぐにユダヤ系だとわかってしまう名前を隠すために、ずっと、JDサリンジャーと名乗っていたのだという。かくいう私も、ちょっとだけそれに似た理由で、たかこ BLと名乗っている。BLがなにを略しているのかを、私は口にすることができない。だから私は、行儀のいいタクシー運転手みたいに、余計なことをいわず、どこへいってもできるだけおとなしくしている。 私たちの日での生活はいくぶんきゅうくつだ。いつも、誰かに見つかってしまわないかとそればかりを心配している。三者面談のときには、お父さんにきちんとひげをそってスーツを着てもらうようにおねがいしなければいけなかった。「ちゃんとしたスーツを着てね」と私はいった。「なるべく原理主義者っぽくないやつ」。お父さんは肩をすくめて、「わかってるよ。俺は三者面談にはターバンを巻いていかない主義な

    cb_k
    cb_k 2009/09/11
    たかこちゃん成長してる…
  • 巨大な風車 - 空中キャンプ

    これはわたしのさほど根拠のない推測なのだが、江東区はどうやら風力発電に力を入れているようで、同区のいたるところでは、大小とりまぜた風車がぐるぐるとまわっている。ふだんの生活ではあまり目にすることのない風車が、海沿いの区に集中して作られ、きまじめに四股を踏む力士のように黙々と働き、風を受けながら電力を生みだしているのだ。江東区の風車には、数メートルといったちいさなサイズから、全長が百メートル近くあるきわめて巨大なものまで、たくさんのバリエーションが存在している。 このように数多くの風車が建てられているのは、区が海に面した場所にあって風がよく吹くため、風車がよくまわるからなのかもしれないし、来たるべきエネルギー資源の枯渇へ向けて、都や国がなんらかの対策を試験的に練っているのかもしれない。もしくは、大きくてプロペラ状のものが元気よくまわっていると、それだけで景気がいいから、ついがまんできずに建て

    巨大な風車 - 空中キャンプ
    cb_k
    cb_k 2009/06/23
    "風を受けてまわる巨大な風車は、まるで大海で生命を謳歌する抹香鯨みたいに見えた。"
  • 人のからだが立てる音 - 空中キャンプ

  • 小説と映画のちがい - 空中キャンプ

    小説映画の大きなちがいは、それが個人でできる作業かどうかであるとおもう。基的に、商業映画をひとりで作ることはできない。規模の大小はあれ、複数の人間が関わることでしか映画は完成しない。反対に、小説はひとりで書き上げるものであり、他者が介在することはすくない。あくまで小説は個人作業なのだ。小説映画という表現手段には、そのような差異がある。 複数の人間が関わることで、そこで予期しなかったできごとが確実に発生する。それが映画という表現の特徴である。カメラの前で役者たちがどんな演技をするかは、撮ってみないとわからない。とある風景を撮ったとき、そこにたまたま写り込んでしまうなにかを、事前に言い当てることができない。想像もしていなかったようなシーンがたまたま撮れてしまう可能性はおおいにある。複数の人間が共同でひとつの作品に参加するとき、そうした偶然によって映画が豊かになっていくし、そこが映画のおも

  • あまりにも破壊力のありすぎる記憶 - 空中キャンプ

    若気の至りってやつは、実に途方もなくおそろしいものである。わたしはなぜ、あのように恥知らずな言動ができたのか。同じ自分のふるまいだとはおもいたくない。かつて自分のさらした、さまざまな醜態。自分があのとき、あのタイミングでいったこと、やったこと。それらをおもいだしただけで、「う、うわーっ」と叫びながら、誰もいない山奥に逃げて、そのまま隠遁生活をはじめたい衝動にかられる。 数多くの人びとがそうであるように、わたしの記憶内部にもまた、過去におけるいくつかの醜態がしっかりと残っており、なかでも+Aランクに恥ずかしいのは、二十五歳のころのあれと、二十七歳のころのあれで、そうした過去をおもいだしただけで、わたしは格的に具合がわるくなってくる。これらは、あまりにも破壊力のありすぎる記憶なので、脳もかなりしっかりと封印してくれているのだが、ほんのちょっとしたきっかけ、たとえば人間関係の悪化、仕事の失敗と

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    cb_k 2009/02/20
    何かの拍子に記憶の蓋が開いちゃってぐあー!って床を転げまわったりしている20代後半。これ30代になっても変わらないのか…
  • 東京の合唱 - 空中キャンプ

    若い人たちが東京に憧れなくなったのだという。東京に求心力がなくなり、若者は「ジモト」を志向している。いい傾向だとおもう反面、そんな話を聞くと、わたしは自分だけがやけに歳を取ってしまったような気がしてならないのである。わたしは、みっともないくらい東京に憧れていた。 東京へいきたい。高校生のわたしは、それだけを生きるよすがにしていた。かっこいい東京。いや、わたしの東京への憧憬は、「憧れていた」などと過去形で語れるようなしろものではない。わたしはいまだに、東京に憧れているのだ。東京に住んで十九年。もうそろそろ飽きてもいいころだが、わたしの憧れは続いている。 たとえば、上京して十七年目のこと。わたしはついに、かねてからの希望であった、都内のとあるおしゃれタウンに越すことができた。たくさんの若者が集うことで知られる、音楽ファッション文化の街。わたしはついに、おしゃれタウンの住人となったのだ。この

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    cb_k 2009/01/21
    何かに憧れるのならこんな憧れ方がいい
  • 個人的なルーティン - 空中キャンプ

  • 2008年の映画をふりかえる/結果発表 - 空中キャンプ

    みなさんこんにちは。空中キャンプを書いている者です。今年いちばんおもしろかった映画を、みなさんの投票により、ちょう民主主義的に決定する「2008年の映画をふりかえる」の結果がでました。さっそく、順を追って発表していきたいとおもいます。みなさんからは、あらかじめ以下のフォーマットにてアンケートを集めました。 名前(id、もしくはテキトーな名前)/性別 2008年に劇場公開された映画でよかったものを3つ教えてください 2で選んだ映画の中で、印象に残っている場面をひとつ教えてください 今年いちばんよかったなと思う役者さんは誰ですか ひとことコメント 参加していただいた方々の人数と男女比は以下です。 まずは、参加していただいた方々にお礼を述べたいとおもいます。ありがとうございます! 今まででいちばんの人数、ついに大台の3ケタに到達しまして、よりたくさんの方の意見が含まれた貴重な調査結果になったので

    2008年の映画をふりかえる/結果発表 - 空中キャンプ
  • 2008年の映画をふりかえる - 空中キャンプ

    みなさんこんにちは。空中キャンプを書いている者です。もうすっかり年末ですが、いかがおすごしでしょうか。さて、わたしは毎年かならず、この時期になると、その年に公開された映画にかんするアンケート企画をしていまして、これがおもわず長続きし、ついには五年目に入るわけですが、今年もまたおこないたいとおもいます。「2008年の映画をふりかえる」です。 これはどういうアンケートかというと、その年に公開された映画をふりかえる、そしてよかった映画のタイトルをあげていただき、それをほめるという趣旨で、みなさんの意見を集めるものです。もちろん、いただいた意見は集めっぱなしにはせず、わたしがまとめをし、できるだけおもしろく読めるような感じに工夫しつつエディットして、ちゃんと発表します。今までの結果はこんな感じです。 2004年の映画をふりかえる 2005年の映画をふりかえる 2006年の映画をふりかえる 2007

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    cb_k 2008/12/14
  • 沈殿する言葉 - 空中キャンプ

    長い小説を読み終えて、をぱたんと閉じる瞬間というのは、実に気持ちのいいものである。これほど、達成感という言葉がしっくりくるものもない。それがおもしろいであれば「ああ、読んでよかった」とうれしくなるし、今ひとつ自分の趣味にあわなかったとしても、ふくらはぎを痛めながらもかろうじて完走したマラソンランナーのように「それでも最後まで読み通した」と自分を誇ることができる。 ここでむずかしいのは、世間的には名作と称される古典の長編小説に手をだし、じっさいに読んでみるとまったくわけがわからず、心が折れかかっているようなときである。がんばって読み通すか、おもいきってあきらめるか、という選択をせまられることになる。名作というからには、きっとそれなりの意味あいがある小説なのだろうけれど、なにがおもしろいのかさっぱり、というような場合、しだいにのタイトルを見ただけで悲しくなってくる、といった事態にもなりか

    cb_k
    cb_k 2008/11/23
    じゃああの本を読んだ時間は無駄じゃなかったってことだ。名作読んで面白く感じられなかった時って悲しかったけど、これからはそんな気持ちにならなくて済みそう
  • Don’t Trust Under Forty - 空中キャンプ

    肉体は放っておいても歳を取っていくが、精神はそうはいかないものである。わたしももうすぐ三十七歳。三十代になってから、ブラッド・ピットがチベットですごしたのと同じ時間が経つ。三十代も後半にさしかかり、あとちょっとで四十歳というところまできている。あとちょっとで四十歳。ぐわあっ。 歳を取るのはべつにいい。もともと、さほど若さに価値観を置いていたわけではなかったからね。わたしは、精神もひとりでに歳を取ってくれるものだとばかり考えていたから、いまだに精神がきちんと成熟してくれないことに動揺しているのである。外見ばかりが歳を取り、内面がいつまでも子どもというのではみっともない。いまだにいちごポッキーやプリンが大好きなのである。精神はかってに歳を取ってくれない。おそらく人は、どこかのポイントで、意識的に成熟を選び取っていかないとまずいことになる。 なんでこういうことを考えていたのかというと、フィッツジ

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    cb_k 2008/11/19
    適切に年をとった人しか持ち得ない美しさみたいなものがあると思うんだけどそれを自分が得られるかと考えると甚だ疑問だ
  • バターとマーガリン - 空中キャンプ

    いぜん、わたしの働いている会社にヤスダ君という男の子がいた。歳は二十四でまじめな性格だった。誰に対しても愛想がいいので好かれていたし、仕事もていねいにやってくれていたが、ただひとつ欠点があるとすれば、彼はわたしが今まで見たことがないくらいに字がへただった。彼に記入してもらった書類は、なにか見知らぬ言語で書かれた不吉なメッセージのように見えた。 「ヤスダ君、この書類のここ、なんて書いてあるの」とわたしが訊くと、「ええと、これは、なんて書いてあるんでしょう…。わかりません」と彼は答えた。彼自身にすら、判読は不能だったのだ。「ヤスダ君が読めないとなると、これ誰も読めないよ」とわたしがいうと、「ええ、はい。すいません。でも、うまく書けなくて、字が」と彼は弁解した。 これは字のへたな人に共通することなのだが、たいていの場合、字がとても小さい。ひとつひとつの文字が小さすぎて、判読がむずかしい。だからさ

    バターとマーガリン - 空中キャンプ
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    cb_k 2008/11/09
    "彼の書く「12」は、体育館のまんなかに誰かが置き忘れた運動靴みたいに見えた。"
  • 記憶 - 空中キャンプ

    先ほど、電車の中で席に座りながら、そのまま眠ってしまいそうな、でも意識のどこかではふしぎと目覚めているような、半覚醒の状態になりつつおもったのだが、世の中には、かつて有名人と恋人として付きあった経験のある一般の人たちがたくさんいて、そういう人たちは、テレビをつけたり雑誌の広告を読んだりするたびに、かつての恋人の顔を見ていることになる。それはいったいどういう気持ちがするのだろうか。 たいてい、別れた恋人とは顔を合わせなくなるものである。今はなにをしているのか、どこに住んで誰とどうしているのか、知りようもない。それはしかたのないことだし、またポジティブな前進でもあって、われわれは過去とさっぱり決別して、次の段階にいける。忘れるのはいいことだしね。ところが、いったん有名人と付きあってしまうと、別れた後でも、その人はテレビや広告などに登場し、われわれの視界に入ってくる。考えてみると、これはけっこう

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    cb_k 2008/11/02
    かっこいい事言ってて、かつ着地点は妄想。いいなー。
  • もはや、ヤングではない - 空中キャンプ

    三十歳をすぎて何年かたったあたりで、わたしは自分が、ジーンズとTシャツがあまり似合わない男になったことを認めざるをえなくなった。ジーンズを履いたわたしは、「日曜にホームセンターへ買いものにいくお父さん」といった体である。若々しさに欠けている。なんだかとてもがっかりさせられる、残念な発見だった。 わたしはスニーカーも好きだったし、冬はダウンジャケットとブーツという組み合わせがかっこいいとおもっていた。しかし今となってみれば、そうした服装のわたしは、「すごく寒い日に、ダウンジャケットを着てホームセンターへ買いものにいくお父さん」にしか見えず、わたしはついに、ストリート系のファッションぜんたいを断念しなくてはならないという結論にいたった。 おもうに、たいていの人が考える「おしゃれ」とは、ようするに「若くてさわやかに見える」ということである。特に女性はそうだ。あるていど流行を意識しつつ、自分ほんら

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