バターとマーガリン - 空中キャンプ

いぜん、わたしの働いている会社にヤスダ君という男の子がいた。歳は二十四でまじめな性格だった。誰に対しても愛想がいいので好かれていたし、仕事もていねいにやってくれていたが、ただひとつ欠点があるとすれば、彼はわたしが今まで見たことがないくらいに字がへただった。彼に記入してもらった書類は、なにか見知らぬ言語で書かれた不吉なメッセージのように見えた。 「ヤスダ君、この書類のここ、なんて書いてあるの」とわたしが訊くと、「ええと、これは、なんて書いてあるんでしょう…。わかりません」と彼は答えた。彼自身にすら、判読は不能だったのだ。「ヤスダ君が読めないとなると、これ誰も読めないよ」とわたしがいうと、「ええ、はい。すいません。でも、うまく書けなくて、字が」と彼は弁解した。 これは字のへたな人に共通することなのだが、たいていの場合、字がとても小さい。ひとつひとつの文字が小さすぎて、判読がむずかしい。だからさ

[hakkatabaco]

そして「中でも、2は苦手なんです。4なら、もうすこし大きく書けるとおもうんですけども」とつけくわえた。「気にしなくていいよ」とわたしは答えた。

[cb_k]

"彼の書く「12」は、体育館のまんなかに誰かが置き忘れた運動靴みたいに見えた。"

[hifie]

「気にしなくていいよ」

[mega-uma]

ヤスダ君の気持ちがすごくわかる

[chintaro3]

おもしろい

[mokkei1978]

ステキ。どこの村上春樹かと思いました。

[cinemathejury]

ぼくの高校の同級生はあまりに字が大きすぎて、試験のときに先生が特製の解答用紙を用意してました。

[takanofumio]

時間がたつと本人にも読めなくなる字を｢揮発性文字｣というそうですが(c)オタク五十嵐

[nagachika]

「2は苦手なんです。4なら、もうすこし大きく書けるとおもうんだすけども」くやしいくらい文章がおもしろい。