井上ひさし(1934~2010)と浅利慶太(1933~2018)。二人の演劇人が遺した「戦争」をめぐる舞台『父と暮せば』と『ミュージカル李香蘭』が、終戦から74年の今夏、東京で相次いで上演された。 一人は現代を代表する劇作家で、憲法を守る運動の旗頭。もう一人は、日本最大の劇団を率いた演出家であり、改憲に強い意欲を示す中曽根康弘元首相のブレーンも務めた人物。 政治的な立場は対照的だが、作品からは「誤った未来を選択しないために、過去に学ばなくては」という同じ声が聞こえてきた。 二人はともに、戦争の時代に生まれ、敗戦で価値観が根こそぎひっくり返るのを少年の目で見てきた世代だ。舞台には、それぞれの語り方で、戦争の実相を語り継がなくてはという使命感がみなぎる。そして多くの命を奪う戦争の愚かさを見据え、考えるための「知」を伝えたいという、祈りにも似た願いが託されている。 古来、演劇は「死者」と語り合う