1.はじめに ウクライナ危機が起きてから奇妙な現象にぶつかることがある。これが国民国家だろうかと思われるような現象である。 2014年2月末にロシアがクリミアを占領しはじめたとき、現地駐留のウクライナ兵は少しも抵抗しなかった。抵抗しても無駄であることが判っていたので、上からそのような指令があったのだろう。しかし、それだけでは説明がつかないこともあった。というのは、多くの兵士がロシア側に寝返ったからである。つい最近任命されたばかりの海軍司令官も寝返った1。 冷戦後のヨーロッパでは戦争が起きないし、たとえ起きたとしてもNATOやOSCEのような国際組織がそれを阻止してくれる、財政難のおり戦力は最小限でよい、とウクライナ政府は信じていたふしがある。しかし、ウクライナ自身が国境を守らないとすれば、誰が守ってくれるだろうか。『ニューヨークタイムズ』紙のライター、M・コーフマンは、「ウクライナにはソ連