予約してくださっていたすき焼きのお店では、運ばれてきた野菜やお肉を客が自ら焼いて食べるスタイルだった。ここは田中が焼くべきかと思い、トングを手にしたのだが、井田氏が「任せてください」と言って、牛脂をのせてタマネギやお肉を焼き始めてくれた。「結婚したら、こうやって男も料理をしないといけませんからね」と言いながら、慣れない手つきではあったが、井田氏なりに順序を考えて焼いてくださり、しいたけや豆腐、しらたき、ねぎが入り、グツグツと煮込んでいる間、井田氏は額にかいた汗をハンカチでふいていた。 途中、田中も手伝ったり、お皿に取り分けたりと、気がつけば初めての共同作業をしていた。その間、自然と会話が生まれ、こういう料理もいいなと思った。 そろそろお店を出る頃となった。もし田中に対して良い印象を持ってくれたなら、次につながる約束をしてくれるのではないか、と淡い期待を抱いていた。定期的に会うサークル仲間や