ブックマーク / tamokuteki.hatenablog.com (8)

  • はじまりはいつも雨 - 多目的トイレ

    新しい季節はいつだって雨が連れてくる。 人は傘をさすとどうしても俯きがちに歩いてしまうものだ。きっと、僕らは空から落ちてくるものを遮るようにはできていない。空から落ちてくる物は全て恵みだ。だからそれを遮る傘ってやつは何となく居心地が悪いものと感じるようになっているのだろう。 水たまりの波紋を眺めていても何も始まらない。斜めに構えた傘を垂直に持ち直し前方を見る。そこには待ち時間の長い信号を携えた交差点があった。やはり前を見て正解だ。 この交差点はあまりに信号待ちの時間が長い。ちょっと壊れてるんじゃないかと疑いたくなるくらいの待ち時間だ。それ故に、バカ面でジーっと待っているのはあまりに忍びない。かなり手前から信号のタイミングを見計らって歩調を調節することが大切になってくるのだ。下ばかり見ていてはこの調節ができないところだった。 今このタイミングで青になったということは、だいたい今よりちょっと遅

    はじまりはいつも雨 - 多目的トイレ
    cho-zu
    cho-zu 2016/06/11
    自分に手振ってくれてると思って振り返したら違う、そんなときの気まずさは異常……。
  • 黒いブラックマウンテンと小さな少女の謎 - 多目的トイレ

    圧倒的才能の前には努力など無意味なものなのかもしれない。 例えば、体のつくりが根的に違う異星人がこの星に舞い降りてきて、まあまあ仲良くしてくれて住み着いたとしよう。ある程度の期間住み着けば、やはり市民権をという流れになると思う。そうなってくると、異星人もオリンピックに出場してもいいよねという機運が高まってくるはずだ。 しかしながらその異星人は遅い部類の個体でも100メートルを4秒くらいで走るポテンシャルだったとしたら、これはもう人類では太刀打ちができない。どんなに努力し、練習し、死に物狂いで頑張ったたとしても、人類では9秒台で100分の1秒を縮めるのが精一杯だろう。オリンピックの代表を異星人が占めるようになれば、もう人類は誰も努力をしない。 僕だって努力は報われて欲しいと思っている。才能に胡坐をかき、努力をしない自信家を、堅実な努力家が打ち負かしてくれたとしたら、これだけ胸がスッとするこ

    黒いブラックマウンテンと小さな少女の謎 - 多目的トイレ
    cho-zu
    cho-zu 2016/05/30
    圧倒的な才能を見せ付けられると、もう諦めるしかないよね、って思う。けれど、まあ好きにやっていくか、どうでもいいし、って思うと途端気が楽になる。ぼくは「ぼく」を一番うまくやる才能くらいは持っているし。
  • カメムシだって嫌われたくてやってるんじゃない - 多目的トイレ

    カメムシとは悲しい生き物だ。 彼はかなり癖のある独特の悪臭を振りまく昆虫として有名だが、実のところその悪臭を振りまく理由はよくわかっていない。普通、こういった悪臭は天敵に対して有効で、欲をなくす臭いを放出することで自分の身を守ることが多い。しかしながら、カメムシの出すその臭いは全く有効ではなく、天敵である鳥はいくら悪臭を出そうがガンガン捕してべる。なんなら少しクセがあってこの臭いがたまらんよね、くらい思っている可能性があるのだ。 何の意味もないのに強烈な臭いを発して人々から忌み嫌われる。そんなカメムシのことを思うと少し切なくなるし、いつのまにか自分の身に重ね合わせて悲しい気持ちになってしまう。 この世の中にはカメムシのように何ら意味のないことが原因で嫌われている人も多い。もちろん僕だってそうで、例えば自分の中に譲れない何かがあって、それがもとで周囲と衝突して嫌われている、ならまだ分か

    カメムシだって嫌われたくてやってるんじゃない - 多目的トイレ
    cho-zu
    cho-zu 2016/05/12
    会社で読んで笑いこらえてたら、鼻から空気でていってフヒィって変な音でた。
  • 通学路の松井さんは僕にだけ挨拶をしてくれない - 多目的トイレ

    松井さんは僕にだけ挨拶をしてくれなかった。 どうも使えないやつと思われているのか、仕事をやる気はあるのに仕事を回してもらえなくて少し憂な気持ちで出勤していた時、少し思い立っていつもと違う通勤経路を歩いてみた。 そこで僕は一人の老人に出会った。あれは去年のこんな季節の頃だっただろうか。通りが一違うだけでそこは世界が違っていて、繰り広げられる朝の風景もどこか別の世界のそれのようだった。 賑やかに走る小学生の集団、電車に間に合わないのか鬼の形相で時自転車を漕ぐスーツ姿のサラリーマン、仏頂面で犬の散歩をするご老人、井戸端会議に余念のない主婦たち、僕が知らなかっただけで通りの数だけ朝の風景が展開されているのである。 緩やかなカーブの手前に大きな木を庭に植えている家がある。立派な門構えの家で、その横の広大なスペースも月極駐車場として貸しているような雰囲気だった。その立派な門と駐車場の間のスペースに

    通学路の松井さんは僕にだけ挨拶をしてくれない - 多目的トイレ
    cho-zu
    cho-zu 2016/05/10
    これはズルい、名文だ。
  • 花言葉はイノセンス - 多目的トイレ

    吉田さんは無邪気に笑ってグラスを傾けた。趣味の良いジャズに混じってカランという氷の音が響き渡った。 「どうやったら家が売れるかなんてわからねえよ」 吉田さんは自嘲気味に言った。詳しくは知らなかったが、どうやら彼は家を売る立場の人らしい。マイホームの営業マンか住宅展示場で働く人か、もしくはそういった企画を立てるハウスメーカーの人か、詳細は分からないが、家が売れないと結構困るようだった。 「家なんて一世一代の買い物ですもんね。快楽天を買うのとはわけが違う」 僕が同意すると、吉田さんはまさしくその通りという顔をした。 「ねえ、考えてくださいよ。どうやったら家が売れるか。どうやったら買う気になるか」 最初は冗談めいていた吉田さんだったが、なんだか少し気の熱量みたいなものを感じられるようになってきた。きっと、当に悩んでいるのだと思う。 「いやあ、でも、ほら、やっぱ快楽天を売るのとはわけが違うし。

    花言葉はイノセンス - 多目的トイレ
    cho-zu
    cho-zu 2016/04/22
    家言葉、とまでは言わないけれど、最近マンションの広告とかにポエム書いてあるじゃないですか。案外効果あると思いますよ。
  • ランボー怒りのアフガン - 多目的トイレ

    人を怒ることは難しい。 怒りという感情を最小の単位にまで分解して考えてみると、根というか怒りの泉源は2つに分類できることに気が付く。決して繰り返させてはいけないという想いか、単純に許せない、という想いかそのどちらかで怒っている。前者は、発展的怒りと呼ぶことができるが、後者は後退とまでは言わないが、何も先に進まない、停滞的怒りとも言い換えることができるかもしれない。 停滞的怒りとは、単純に自分の中のストレスを吐き出す行為である。自分の中に溜まった怒り、イラつき、不満、そういったどす黒い感情を吐き出し怒る。そうすればいくらかはスッキリするかもしれないが、怒られた方は結構たまったものじゃない。 では、発展的怒りの場合はどうだろうか。これは、「その怒りの元となる行為は避けることができたのか?」という点が焦点になる。今怒ってる、でも、その原因となった事象は避けることができなかったのか?そういう考え

    ランボー怒りのアフガン - 多目的トイレ
    cho-zu
    cho-zu 2016/04/21
    怒れなくても素敵だなって思うし、見習いたい。
  • たったひとつの冴えたやりかた - 多目的トイレ

    彼女のことがとりわけ大きく見えたのはきっと錯覚だったのだろう。 黒板の前に立つ彼女は、先生の半分くらいの身長で、黒板に大きく書かれたおそらく彼女の名前であろう四文字の漢字よりも随分と小さかった。一般的なこの年代の小学生より少し小さいくらいの小柄な女の子だった。 「お父さんが火事で死んだので転校してきました」 ランドセルを背負った彼女がその小さな口から、あまりに普通に、それこそ先週の日曜日は家族でイオンに行きましたというくらいの当たり前のトーンで衝撃的なセリフを言ってのけた。それは彼女なりの最初に一発かましてやろう、という勝負のギャグだったのか、それとも何か頭のおかしい謎のサイキック転校生がやってきてこれからドタバタ学園コメディが始まるのか、様々な思いが頭の中を駆け巡ってどう反応していいのか分からない状態だった。 「山田さんのご家庭は不幸な事故がありました。そして、お母さんの実家があるこちら

    たったひとつの冴えたやりかた - 多目的トイレ
    cho-zu
    cho-zu 2016/04/20
    暖かい想いってのは、疫病のように確実に広まっていくんだと想いたい。そういうものに、味噌つけて回る人だっているけれど、きっとそんなものはものともしない強い疫病になる。
  • 夏の匂いとハッシュタグそして140文字の彼女 - 多目的トイレ

    そのオッサンの存在に気が付いたのは、まだ夏の匂いが残る暑い日のことだった。 何の気なしにツイッターのタイムラインを眺め、そこから気になった人物のツイートを辿り、さらにそこから気になった人を巡る、というインターネットラビリンスの中に身を沈めていた時、一つのツイートが目に留まった。 「#リツイートしてくれた人の印象を語る」 たしかこんなハッシュタグがついたツイートだったと思う。ツイートの主は、若い女の子だった。異形とも呼べるほど大きな瞳に補正されたプリクラをアイコンにし、仲間たちとの写真に「いつめんフォーエバー」みたいな文字をレイアウトして背景画像にしているような、「青春の光」と言うしかない女の子だった。 もちろん、何のためらいもなく住んでる地域、学校名、クラスまで情報は満載で、インターネット的丸裸を実践している女の子だった。過去のツイートを遡って見ていると、やれ学校帰りにアイスをっただの、

    夏の匂いとハッシュタグそして140文字の彼女 - 多目的トイレ
    cho-zu
    cho-zu 2016/04/20
    インターネットは、無機的なものからいつのにか温かみを持ったものへと移ろいつつある気がする。
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