吉田さんは無邪気に笑ってグラスを傾けた。趣味の良いジャズに混じってカランという氷の音が響き渡った。 「どうやったら家が売れるかなんてわからねえよ」 吉田さんは自嘲気味に言った。詳しくは知らなかったが、どうやら彼は家を売る立場の人らしい。マイホームの営業マンか住宅展示場で働く人か、もしくはそういった企画を立てるハウスメーカーの人か、詳細は分からないが、家が売れないと結構困るようだった。 「家なんて一世一代の買い物ですもんね。快楽天を買うのとはわけが違う」 僕が同意すると、吉田さんはまさしくその通りという顔をした。 「ねえ、考えてくださいよ。どうやったら家が売れるか。どうやったら買う気になるか」 最初は冗談めいていた吉田さんだったが、なんだか少し本気の熱量みたいなものを感じられるようになってきた。きっと、本当に悩んでいるのだと思う。 「いやあ、でも、ほら、やっぱ快楽天を売るのとはわけが違うし。