焼肉のルーツといえば、朝鮮半島に決まっているじゃないかと誰もが思うだろう。なのになぜ改めて取り上げるのか、という声が聞こえてきそうだ。 私もこの連載を始めるまでは、焼肉のルーツに関心を持ったことはなかった。だが、この連載を始め、定期的に図書館に通い、食文化の書棚の前を頻繁に行き来するようになってから、ふと気づいたのである。 焼肉をテーマにした本がけっこうあるんだな、と。 考えてみれば、焼肉と韓国料理とはずいぶん違う。韓国料理の初体験がいつだったか、今となっては正確に思い出せないのだが、おそらくソウルオリンピック(1988年)からしばらく経った1990年代前半だったのではないか。 ソウルオリンピックを機に新大久保のコリアンタウンがメディアで大きく取り上げられ、骨付きカルビや豚の三枚肉を焼くサムギョプサルなど、「本場」を謳った料理が次々と紹介された。脂身たっぷりの肉の塊。辛みと甘みが利いたパン