10月から担当することになった毎日新聞火曜日夕刊コラム欄の第二回です。 シリコンバレーと東京を年に六、七往復する生活を続けて十二年が過ぎた。自宅を出てから東京のホテルに入るまで約十五時間。あるとき僕はこの十五時間を、いっさい仕事のことを考えない時間、ネットにも絶対につながらない時間とすることに決めた。退屈な時間を少し特別な時間に変えたいと思ったからだ。 出発の前の晩から、機内で読む文庫本を四冊、ああでもないこうでもないと選ぶ。気分次第で何を読みたくなるかわからないので、最低四冊は必要なのだ。そして僕のノートパソコンには、名人戦など一万局以上の将棋の棋譜を保管してあるので、誰のいつ頃のどんな将棋を並べようかなと考える。自分のCDライブラリーをすべて収録した「iPod(アイポッド)」を満タンに充電し、聴きたい音楽を百五十曲ほど「iPodシャッフル」に入れると、いざ出張と心の準備ができてくる。