待ち合わせの相手が遅れるという連絡を受けたのでコーヒーをのんで待つことにした。仕事帰りの約束にはまま起きることだ。みんなも私もそれぞれの業務を完全にコントロールすることはできないと知っているから、あんまり気にしない。私にかぎっていえば、人を待つということ自体が、実はそんなにいやではない。相手が永遠にあらわれないのではないかという疑いがうっすらと身体に満ちていく、あのやわらかな心許なさ。今夜だれかに会えなかったとしても、そんなのはたいした問題ではない。それなのに来なかったらどうしようと、どうしてか私は思う。そういうのが嫌いではない。 ターミナル駅の前の大きな交差点の向こうのビルディングのなかに入ったチェーン展開のカフェの、ガラス張りの窓際に座る。本をひらく。男が紙でできた女−−人形ではなく、ちゃんと生きている−−に恋をし、女に触れ、紙の端で無数の切り傷をつくる。女に悪意があるのではない。ただ