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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (3)

  • ずっと失敗していたい - 傘をひらいて、空を

    落ちちゃった、と彼は言う。だいじょうぶ、と彼女は言う。彼女の体温がほんの少し上昇する。彼の職場の昇任試験が何度受験可能なのか彼女は知らない。彼も言わない。そんなことはどうでもいいとさえ、彼女は思っている。彼女はただ彼に、そのままでいてこの世にはなんの問題もないと、そう教えてやる。小さいころからもう二十年ばかり、断続的にそうしている。 七つの彼を見て彼女は、かわいそう、と思った。彼の兄は彼の二倍の年齢なのに小学生にしか見えない華奢な少年で、そのくせ子どもたちより大人たちのほうに、すっかりなじんでいるのだった。彼はその背後でうつむいていた。彼の兄の内面は早熟でそれを格納するからだは脆弱で、その兄にばかり兄弟の母親の視線が注がれていることが、彼女にはくっきりと看て取れた。なにもかも年相応で目立たない彼を、誰も見てはいなかった。彼女は彼を見た。彼も彼女を見た。かわいそう、と彼女は思った。遊びましょ

    ずっと失敗していたい - 傘をひらいて、空を
    cs508
    cs508 2013/07/03
    ずっと失敗していたい
  • 捕まえられない泥棒 - 傘をひらいて、空を

    待ち合わせの相手が遅れるという連絡を受けたのでコーヒーをのんで待つことにした。仕事帰りの約束にはまま起きることだ。みんなも私もそれぞれの業務を完全にコントロールすることはできないと知っているから、あんまり気にしない。私にかぎっていえば、人を待つということ自体が、実はそんなにいやではない。相手が永遠にあらわれないのではないかという疑いがうっすらと身体に満ちていく、あのやわらかな心許なさ。今夜だれかに会えなかったとしても、そんなのはたいした問題ではない。それなのに来なかったらどうしようと、どうしてか私は思う。そういうのが嫌いではない。 ターミナル駅の前の大きな交差点の向こうのビルディングのなかに入ったチェーン展開のカフェの、ガラス張りの窓際に座る。をひらく。男が紙でできた女−−人形ではなく、ちゃんと生きている−−に恋をし、女に触れ、紙の端で無数の切り傷をつくる。女に悪意があるのではない。ただ

    捕まえられない泥棒 - 傘をひらいて、空を
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    cs508 2013/03/05
  • 愛に殉じたそのあとに - 傘をひらいて、空を

    里佳子さんがふたつ年上の夫と結婚して三年になる。子どもができたので退職するという。おめでたい話だ。けれど里佳子さんに限っては少なからぬ数の社員が個人的にざわついており、不審がった後輩が私のところに理由を尋ねに来るほどなのだった。彼は訊いた。なんで家庭に入るとまずいみたいな感じなんですか。あの人旦那さんラブだし別によくないですか。そうとも里佳子さんは旦那さんラブだよと私はこたえた。だから私たちはどうしたらいいかわからない。 最初に里佳子さんとその夫の問題に気づいたのは、自分の結婚式の二次会に彼らを招待した社員だった。里佳子さんたちはまだ新婚だった。ふたりのそばを通ったときに聞こえたせりふに彼女はひやりとした。これだから頭の悪い女はいやなんだ。 あとは里佳子さん人から、少しずつ聞き出した。里佳子さんは愚痴を言わない。ただ彼女が当たり前だと思っている話が、当たり前でない内容をふくんでいる。里佳

    愛に殉じたそのあとに - 傘をひらいて、空を
    cs508
    cs508 2012/03/21
    "愛に殉じたそのあとに"
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