フランスの緊急事態条項めぐる改憲論議から考える まず非常時に政府がとるべき具体的な措置の議論から始めるべきだ 井上武史 九州大学大学院准教授 参照されなかったフランス改憲論議 2015年11月13日に起こったパリ同時多発テロを受けて、フランスでは緊急事態条項を盛り込む憲法改正案が国会で審議された。ただこの改正案は、改憲のもう一つの柱であった国籍剥奪条項について与野党の合意が見込まれず、最終的に頓挫してしまう。しかし、そこに至るまでの政治の動きや憲法改正をめぐる議論は、まさに立憲主義の母国たるにふさわしく、異国の憲法学徒にとってもたいへん興味深いものであった。 ところが、私の見るところ、日本の専門家やメディアの間で、フランスでの改憲論議が参照されることはほとんどなかった。2012年の自民党「日本国憲法改正草案」が緊急事態条項を明記しており、また、最近でも安倍首相が緊急事態条項を改憲の優先項目