(河出書房新社・2808円) 形成に関わる前代未聞の「アンソロジー」 日本語のネイティヴスピーカーは、「漢字仮名交じり文」をもつ自分たちの言語が相当入り組んだ造りであることは自覚している。とはいえ、どんな成立過程を経てこうした造りになったのかには、意外と無関心のように思う。『日本語のために』は、祝詞、漢詩、漢文、仏教典、キリスト教典、琉球語・アイヌ語の文献、五十音図、シェイクスピアの邦訳、大日本帝国憲法、日本国憲法など、日本語の形成に深く関わる、あるいは、その時代の日本語の特徴を顕著に表す文章、文書のサンプルを広範に採集し解説を加えた前代未聞の「アンソロジー」である。かつて国語教育を鋭く批判した丸谷才一の『日本語のために』(1974年刊)を意識したタイトルだろう。中立的な見本収集では当然なく、編纂(へんさん)の仕方は高度に批評的だ。 本書中の文章のほとんどが、翻訳を通して/に伴って作られた