東京・六本木にある「おつな寿司」は、創業1875年(明治8年)。飲食店の入れ替わりが激しい大都会の中で、140年もの歴史を誇る老舗の寿司屋です。にぎり寿司やちらし寿司などもさることながら、この店の名を全国に知らしめたのは、「いなり寿司」の存在です。もとは、初代の近藤つなが六本木で茶店を開業したのが始まりで、油揚げを裏返しにして、柚子の皮を加えた酢飯を包んだ「いなり寿司」が評判になり、いつしか「おつなさん」といえばいなり寿司の代名詞になりました。現在は、5代目当主の近藤功夫さんがのれんを守っていますが、油揚げを炊く煮汁は、創業以来、継ぎ足し継ぎ足し使い続けている秘伝の味だといいます。甘辛く炊き上げた油揚げは、1枚1枚ていねいに裏返し、一晩置いてじっくりと味をなじませます。酢飯に混ぜ込む柚子は、四国産。11~12月、旬真っ盛りの時期に大量の柚子を取り寄せ、皮と身を分けて傷を取り除き、冷凍保存し