ソウルからバスで1時間の広州(カンジュ)。小雪が舞う町はずれの山あいに「ナヌムの家」はあった。ナヌムとは「分かち合い」。日本軍に性暴力を受けた元慰安婦9人が助け合い、静かに暮らしていた。 ◇ 「やっと平穏な生活を手に入れることができた」。李玉善(イ・オクソン)さん(78)はオンドルのついた8畳ほどの個室で編み物をしていた。「家」に来たのは6年前。戦後55年間、連行先の中国で暮らしていたという。 「無理やり連れて行ったうえ、戦争が終わっても、ほったらかし」。編み物をやめ、語気を強めた。 韓国南東部の蔚山(ウルサン)で、住み込みのお手伝いとして働いていた42年、大通りを歩いていると、背の高い男2人に突然、両脇をつかまれた。トラックに放り込まれて両手両足を縛られ、口をふさがれた。連れて行かれたのは中国東北部の延吉。電気の流れる鉄条網に囲まれた飛行場で草刈りや滑走路の掃除をさせられ、食べ物は小さな