村上春樹さんのデビュー作『風の歌を聴け』は、1979年の群像新人文学賞を受賞した。わたしは、その前年に、文芸図書第一出版部に異動してきて、この小説を単行本化することになった。とても爽やかで今まで読んできた小説とは、全く違った風景がみえた。 Tシャツのイラスト(村上さんの手書きだ)とDJのおしゃべりと神戸の港と、自殺した女の子が印象的だった。この女の子は、やがて『ノルウェイの森』の直子になる。初めて村上さんにお会いしたのは、当時村上さんが経営していた千駄ヶ谷のジャズ喫茶「ピーター・キャット」。おしゃれでクラッシックな内装で、美味しい珈琲があった。 アンティークなテーブルの上には、小さな花が一輪ずつ飾ってあった。流れているジャズは、スタンゲッツ。CDではなくLPですよ、もちろん。 応募時のタイトルは「Happy Birthday and White Christmas」だった。そのほうがよかっ

